バフェットに大きな影響を与えたことで有名なフィリップ・フィッシャー。
バフェットが「私の85%はグレアムからできていて、残り15%はフィッシャーからできている」と発言するほど敬愛し、「フィリップが言うことすべてを覚えているほどに熱心な読者であり、彼の著書を強く推薦する」と述べています。
このフィリップ・フィッシャーの著書「株式投資で普通でない利益を得る」は、フィッシャーの著作の中でも最も優れた投資解説本と評価されている本です。
この本には長期資産形成の助けになるフィッシャーの貴重な投資のヒントが多数紹介されています。約60年前に書かれた本ですが、真面目に堅実な投資をする指針となりますので、紹介します。
なお、この情報は、バフェット関連本からの学びをもとに紹介します。
目次
バフェット氏:なぜ、グレアム100%ではダメだったのか?
バフェット氏の「私の85%はグレアムからできていて、残り15%はフィッシャーからできている」という発言しましたが、なぜ、100%グレアムではだめだったのでしょうか?
グレアム氏は「バリュー投資の父」
グレアム氏は「バリュー投資の父」です。バリュー投資は優れた投資の考え方ですが、グレアム理論(シケモク理論)には限界があります。
バリュー投資は、元本の安全性を担保しつつ適正な利益を得る投資法で、割安かどうかの判断も含め、て詳細な財務分析を行い、「企業の本質的価値」を見極め、割安な価格で株を買います。
バリュー投資の7つの基準 | |
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項目 | 確認事項 |
❶適切な事業規模か | 小型株は避ける |
❷財務状況は健全か | 流動資産が流動負債の2倍以上、かつ、長期負債が純流動資産以下 |
❸収益は安定しているか | 最低10年間は赤字がない |
❹配当はあるか | 20年連続で配当を出している |
❺収益の伸びはどうか | 過去10年間のうち、直近3年間の1株当たり純利益が最初の3年間より33%以上上昇 |
❻株価収益率は適当か | PERが15倍以下 |
❼株価純資産倍率は妥当か | PBRが1.5倍以下 |
しかし、バリュー投資では、割安な株は見つけられても大化けする株が見つけられない可能性があります。割安であっても、上がらない株はいつまでも上がりません。割安さだけでは投資で成功することはできないのです。
フィッシャー氏は「成長株投資の父」
一方、フィッシャー氏は「成長株投資(グロース投資)の父」。
フィッシャーは、単に割安であることでなく、今の利益だけでなく、数年後にどうなっているのか=「成長性」も重視して、投資することが大事とする論を展開。事業内容や経営者の資質など、数字に表れない部分で評価する「定性分析」を重視しています。これには、業績安定の他、さらなる売り上げ拡大のための研究開発努力や営業部門の充実、優れた労使関係なども評価の対象です。
バフェットは「まずまずの企業をすばらしい価格で買う(グレアム論)より、すばらしい企業をまずますの価格で買う(フィッシャー理論)方がいい」と発言しています。
バフェットはバークシャーの買収の失敗に学び、グレアムが注目しなかった企業の成長性に見込んだ投資を実践。モトローラー、テキサスインスツルメンツなどに長期投資することで、何十倍、何百倍の利益を得ています。
「成長株の発掘」こそ、フィッシャー氏の「よい投資をすればだれでも億万長者になれる」の名言につながっているのです。
バフェットの投資術
バフェットは、グレアム理論を土台に、フィッシャー理論を取り入れ、独自の企業の指針を打ち出しました。
❶事業内容が単純明快であること
❷安定した業績を持っていること
❸今後も成長が期待できること
これらに基づき投資を行うことで、バフェットは誰もが尊敬する投資家となりました。
バフェットの投資法について学びたいけれど、難しい本は苦手という方にお薦めしたいのが「バフェットの投資術」。
バフェットが幼少期から様々なビジネスを自ら考え実践していたこと、その後、グレアム、フィッシャーとの出会いを通じて確立した投資法・投資哲学が分かりやすくまとまっています。
株式投資で普通でない利益を得るための10のポイント
さて、フィッシャーの投資スタイルが理解できたところで、株式投資で普通でない利益を得るためのポイントについて見ていきましょう。
ポイントを10点に絞ると以下のようになります。
「株価」と「株の価値」(いわゆる企業の本質的価値)は全く異なるものです。この事実を認識することが、投資の成功への第一歩です。
企業の価値を理解し銘柄がいつか高く評価されると確信していたとしても、それがいつ起こるのかは予測不可能でしょう。したがって、その現実を受け入れ、確信を持っている株を長期保有することが重要です。
マーケットは、一部の投資家の買いなど気にしません。
その逆に、投資家も市場価格を気にすべきではありません。投資家が自身の購入価格に固執する気持ちは理解できます。しかし、企業の成長見通しに基づいて株を評価する方がはるかに重要です。
投資家の株価への見通しが市場の見方を超えている場合は、その株を保持し続けるべきでしょう。もし、その反対なら、損をしてでもその株を売却すべきです。
最高の成長株は常に割高に見えます。そのため、バリュー投資家は成長株を見逃してしまいます。
優れた成長見通しのある企業にプレミアムを支払うことで、マーケットに大きく打ち勝つリターンを生み出すことができるでしょう。
マーケットでタイミングを計って取引しようとするのは、愚かな考え方です。
マーケットに悲観的な考えが蔓延している時は、株価が下落し続けると考えてしまいます。ですから、市場が低迷しているときに株を買い戻すことはかなり困難です。そして、株価が最終的に反発しても、また下落するのではないかという心配を捨てきれません。
結局、市場からは明確な売買シグナルを得られないため、市場のボラティリティを気にせず長期保有することで利益が得られるでしょう。
優れた投資を見逃すことの機会コストは、投資家が市場平均を下回る株を保有することで負う損失よりもはるかに大きくなります。
市場平均程度の株を、やや下がったけれども回復を期待して持ち続けるべきではありません。それよりも、投資家が調査の結果見つけた優れた株でポートフォリオを最適化すべきでしょう。
インデックスファンドなどを利用した分散化は、一般投資家にとって役立ちます。
しかし、投資家が個々の銘柄を勉強する時間と労力を費やすことをいとわないのであれば、投資先を分散させない方がよいと思われます。
経験豊かな投資家が慎重に選んだ銘柄で構成される集中ポートフォリオのリターンは、市場平均を大きく上回る可能性があります。
力強い成長見通しを持ち、競争優位性のある企業を見つけるのは容易ではありません。
株式投資で成功するには、それらのほんの一握りの優れた株を選別する必要があるでしょう。
優れた銘柄を購入しその後株価が順調に上昇した時、売りたいという誘惑に抵抗すべきでしょう。
利益確定をしたくなる気持ちは分かりますが、極めて大きなリターンは長期保有することによってのみもたらされます。
金融メディアは、一見重要そうに見えるものの、結局は短期的な懸念で投資家の注意を引こうとします。
しかし、投資家は、自らの投資の長期的なファンダメンタルズ分析に集中し続けることで、リターンを最大化し、富を持続的に築いていけるのです。
フィッシャー流:株を買うときに確認すべき15の質問
フィリップ・フィッシャーの著書「株式投資で普通でない利益を得る」には、上記以外にも、多くの人に指示されている投資のヒントがあります。
それが、第3章で紹介される「何を買うべきか-株について調べるべき15原則」です。
この15の質問で、企業の成功性を評価し、質問に当てはまらなかった企業は投資対象から除外していきます。
「企業の力」を見極める
なお、15の質問で見極めることは、以下の3つの「企業の力」です。
❶売上拡大を続ける力:収益の大半を握るサービスで、今後数年間、売上拡大が見込めるか
❷利益を生み出す力 :財務分析・コスト分析など
❸経営者の質 :健全な労使・企業体質など
何を買うべきか-株について調べるべき15原則
- その会社の製品やサービスには十分な市場があり、売り上げの大きな伸びが数年以上にわたって期待できるか
- その会社の経営陣は現在魅力のある製品ラインの成長性が衰えても、引き続き製品開発や製造過程改善を行って、可能なかぎり売り上げを増やしていく決意を持っているか
- その会社は規模と比較して効率的な研究開発を行っているか
- その会社には平均以上の販売体制があるか
- その会社は高い利益率を得ているか
- その会社は利益率を維持し、向上させるために何をしているか
- その会社の労使関係は良好か
- その会社は幹部との良い関係を築いているか
- その会社は経営を担う人材を育てているか
- その会社はコスト分析と会計管理をきちんと行っているか
- その会社には同業他社よりも優れている可能性を示唆する業界特有の要素があるか
- その会社は長期的な利益を見据えているか
- 近い将来、その会社が成長するために株式発行による資金調達をした場合、株主の利益が希薄化されないか
- その会社の経営陣は好調なときは投資家に会社の状況を饒舌に語るのに、問題が起こったり期待が外れたりすると無口になっていないか
- その会社の経営陣は本当に誠実か
フィッシャーの投資法はなかなか難易度が高い
フィッシャーが企業先に求めているのは「良質な企業」です。
株を購入する際、これらを反芻してから投資すると、投資リターンが高まること間違いなしです。
しかし、一方で、これらのチェック項目を確認するのは、非常に大変。調査には時間がかかります。また、公開されている情報だけでは確認ができないこともあるでしょう。
それ、フィッシャー流の投資を実践すると、実質的に、多数銘柄に投資することは困難です。
いつ買うべきか?いつ売るべきか?
上記では、銘柄選びの原則15を紹介しましたが、
・いつ買うか?
・いつ売るか
も同様に重要ですよね。この問いに対するフィッシャーの答えを見てきましょう。
いつ買うべきか
マクロ経済や市場動向は予想が困難です。
時間を分散することを心がけようとフィッシャーはアドバイスしています。
一度に買わずに時間をかけて(数年と言っています)少しずつゆっくりと投資しましょう。
いつ売るべきか
売る理由は3つです。
❶買ったこと自体が間違いであると気づいた場合
❷当該企業が時間の経過とともに上記の15の基準を満たさなくなってしまった場合
❸より魅力的な会社が出てきたとき
いつも売り時を失ってしまう方には、この基準が役立つのではないでしょうか。
投資家がすべきでないこと
上述したように、フィッシャーが求めるのは「良質な企業への投資」です。
つまり、それに反する企業には投資しないことが大事です。
具体的には以下のような点が挙げられます。
- タートアップ(創業間もない企業)は買わない
- 「店頭株」だからと言って無視しない(未上場でも良い会社は投資対象として良い)
- 年次報告書の雰囲気が良いというだけで買わない(注意深く分析せよ)
- 高PERは、必ずしも今後収益成長が加速するということではない
- 買値の僅かな差に固執しない
- 分散しすぎない
- 戦争の時期には株を恐れず買う(人々が恐怖におののいている時に買う)
- 多くの投資家から注目されているが、実際にはほとんど意味のない統計数値にごまかされない(株価の過去のレンジなど)
- 本物の成長株の購入にはタイミングと株価も重要
- 多数派のまねをしない
投資に限らず「やらないこと」を決めることは大事です。株式投資の場合、「ダメな企業・リスクの高い企業に投資しないこと」、これを守るだけでも投資のパフォーマンスは上がるのではないでしょうか。
最後に
今回は、フィッシャー流「株式投資で普通でない利益を得る」ヒントと多数紹介しました。
フィッシャーの投資は極めて真面目で堅実な投資です。しかし、愚直にそのスタイルに取り組めば、長期投資により爆発的な利益を得る凄さも持っています。
株式投資の指針としてお役立てくださいませ。
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