【書評/要約】人類と気候の10万年史(中川毅 著)(★5)過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

長い時間で物事を見ると、世界はまったく違う顔を見せる―。

1000年は人間にとっては非常に長い時間ですが、地球の歴史の中では一瞬。10万年、100万年の時間軸で見れば、そこでは何度となく「とんでもない」ことが起こっていました。人類が引き起こしたCO2排出による「温暖化」より、太陽・宇宙-地球の力学で起こる「気候変化」は激しく甚大です。

今回紹介する、中川毅さんの「人類と気候の10万年史」を読むと、私たちが日々ニュースで聞く「地球の温暖化」だけを見ていては、問題を見誤ることがよくわかります。また、なぜ、気候変動予測が難しいかもよくわかります。また、最後には「人類と気候」について、読み始めた段階では思いつかなかった内容に、私たちを連れて行ってくれます。非常に貯めになる本です。

今回は、本書からの学びを紹介します。

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気候の歴史を理解する

気候の歴史:【書評/要約】人類と気候の10万年史(中川毅 著)

私たちは連日のように「気候温暖化」のニュースを耳にします。また、2023年の猛暑はすざましく、「日本が異常に暑くなっている」ことを、思い知らされた夏でした。

では、現在の地球の気温は「異常」なのか?地球時間で気温変化を見ると、全く違った様相が見えてきます。

地球誕生から46億年。地球時間で「気温」を見る

地球の年齢は46億年。下図表は、4つの異なる時間軸で「地球の気温変化」をとらえた結果です。4つの違いを見るに当たって大事なのは以下の2点。

❶気候は絶えず変化し続けている
❷気温には大きなサイクルと小さなサイクルがある

経済(株価)は超長期・長期・短期で見ると、全く様相が異なり、時間軸の異なるサイクルが合成されて成り立っています。これは「地球の気温」も同じ。図1.4~1.6を見ると超長期的には寒冷化サイクルの中にあり、短期的には「温暖な時代」に位置していることがわかります。

私たちは、今を暑すぎ…と言っていますが、恐竜時代は今より格段に暑い時代に生きていたのです。

図番号いつの時代の地球の温度変化か傾向
図1.45億年前~現在気温は下降。寒冷な時代
図1.5500万年前~現在・およそ300万年前頃から徐々に寒冷化
・気候の振幅が増大
現代は増大する不安定性の中ではもっとも温暖な時代
図1.680万年前~現在現代は例外的に温暖な時代
・現代と同様の暖かさは全体の1割程度。残りは氷期
温暖な時代(間氷期)は、10万年間隔でリピート
図1.91880年~現在1970年を境に温暖化が進行
地球の気候変動
地球の気候変動
地球の気候変動
地球の気候変動

気候変動の怖さ

気候変動は、地震や津波のように一瞬で何万人もの命を奪うことはありません。しかし、干ばつ・寒冷化は、一度に多くの人の命を奪います。死者の数は甚大です。例えば、1980年代にアフリカで起きた干ばつでは、数年の間に300万人以上が犠牲になりました。

日本で比較的新しい寒冷化被害と言えば、「1993年の冷夏」です。日本列島を記録的な冷夏が襲い、農作物が不作となりました。米も足りなくなり、「タイ米」などが輸入されたのはこの結果です。ちなみに、冷夏の原因は、その2年前にフィリピンで起こったピナツボ火山の大噴火だというのが、学界では定説です。大規模な火山噴火が起こると、大量の「ちり」やガスが大気中に放出。微細なちりは空気中の水蒸気を寄せ集め、雲の生成を加速します。白い雲は太陽光を反射することで、夏の日傘のように地球を冷却してしまったのです。

現在の日本では、備蓄しているコメの量はおよそ100万トン。日本全国のコメの消費量が年間およそ800万トン弱なので、その1割強を備蓄されています(毎年1/3は更新)。

寒冷化の方が、歯止めがかかりにくい

温暖化と寒冷化、どちらが長期化しやすいでしょうか。答えは「寒冷化」です。

温暖化の場合は、温暖化⇒生態系が豊かに⇒光合成が活発化⇒空気中の二酸化炭素が減って温室効果が薄れて、温暖化に歯止めがかかるからです。

一方、寒冷化はなかなか止まりません。理由は、一旦地表が白い雪・氷で覆われてしまうと、凍りついた地球には光合成をおこなう陸上植物も、二酸化炭素を取り込む「液体」の海もありません。さらに、地表を温める太陽エネルギーを反射します。

では、何が、寒冷化の歯止めとなるのか。その一つは、「火山活動」。火山活動⇒二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に噴出⇒二酸化炭素を取り込む植物・液体の海もないので温室効果ガスが吸収されない⇒温暖化ガス濃度が上昇⇒温暖化と言うメカニズムが働きます。

気候変動に法則性はあるか

気候の歴史:【書評/要約】人類と気候の10万年史(中川毅 著)

気候変動に法則性(サイクル)で有名なのが、3つの周期があるとするミランコビッチ・サイクルです。しかし、世界中の賢威たちが「これだ!」という未来予測を示せていないからには、何か、複雑な問題があるということです。

気候変動の3つの周期:ミランコビッチ・サイクル

10万年周期離心率の変化によるもの ※公転軌道に関わる 図1.6で観測される周期
4.1万年周期地軸の傾きの変化による
2.3万年周期歳差運動の変化 ※自転軸の変化

3つの周期成分はすべて、気候変動と密接にかかわっていて、それぞれが共鳴現象を起こすため、気候変動は極めて複雑な系となります。特に、「安定期が終わり」に近づくにつれて、不安定性が徐々に拡大する傾向があり、急激に局面が反転します。だから、予測が難しい。図1.5の振れ幅の拡大もその例です。

気温予測は難しい

著者らは、海底・湖底の地層をボーリングにより採取し、含まれる化石や化学組成を分析することで、過去に地球がどのような気候変動を繰り返してきたかを分析。世界の研究者の成果で、数年単位で「気候変動イベント」がわかるようになっています。

しかし、ここまでわかっていても、「次の気候変動はいつ頃起こるかの予測」は困難です。それは、気候変動に関わる地球の「系」は非常に複雑です。宇宙空間を移動する天体、大陸移動やマントルの対流は地球の重心位置を変化、降り注ぐ隕石など、本来の地球の公転軌道を変えようとする力が様々存在します。地球・太陽・宇宙の力学は変化し続け、気候も変化していくのです。

中川さんは予測の難しさを感覚的に理解する方法として「二重振り子」です。こちらの動画を見てみてください。二重振り子は、振り子の先に振り子がついた単純な系です。働く力学はシンプルで、動きもシンプルに動くように思えますが、実に驚きの動きをします。

二重振り子の挙動は数学的に予測が「困難」なわけではありません。数式で表せます。しかし、それでも、ほんのかすかな違いで「リアルの動き」に誤差がでる。地球の動きともなればなおさら、予測は実質的には「不可能」なのです。

「株価暴落」は予測不能。「気候変動」も同じ

いやそうはいっても、現代のスーパーコンピューターをもってすれば予測も可能と思われるかもしれません。しかし、経済を見てみてください。今の科学をもってしても「株価大暴落のタイミング」は予想できません。暴落が起こる前、不安定な要素はありながらも比較的安定しているところから、何かイベントをきっかけに、一気に暴落します。

このような系においては、ふだんは「安定相」や「周期相」にあり、例えば、株価の場合は、上昇相場に入ったり、横ばい相場に入ったりします。このような中でいきなりイベントで「相転換」して、リーマンショック、コロナショックのような事態を引き起こすのです。

気候変動もこれと同じです。過去の結果からも、いきなり気候が転換することは明らかになっています。また、昨今、問題視されている人類が引き起こした100年かけて起こる「温暖化」と、自然発生する数年での気候転換は明らかにその激しさが異なります。自然は「もっと激しい変化を発生させる力」を内在しています。

人類と気候変動:祖先はどう生き抜いたかにヒントあり!

【書評/要約】人類と気候の10万年史(中川毅 著)

ここまで、気候変化を予測することは難しいと述べてきました。人類にも、今と似ていない時代を生きなくてはならなくなるときが訪れます。しかし、太古の人類は過去6万年の間に17回、異常な気候変動に遭遇し、それを乗り越えてきました。彼らはどう生き抜いたか、これを知っておくことは大事です。

「異常」な年を生き抜く

異常気候が発生したとき、大打撃を受けるのが「農作物」です。故、古代より、人類は備蓄を行ってきました。ほとんどの古代文明で、1年の不作は乗り越えられる程度の備蓄はしていますが、不作が2年続くと耐えられる文明となると、非常に少なくなります。現代の日本ですら3年以上には対応できません。

しかし、歴史に残るような大飢饉の多くは、天候不順が「数年」にわたって起こっています。これが、農耕民族の弱さでもあります。

知性比較;狩猟時代<農耕時代はホント?

「農耕革命」という言葉に表されるように、私たちは、文明の高さは 狩猟時代>農耕時代ととらえがちです。しかし、中川さんはこの説に疑問を呈します。

農耕が始まったと思われる1万2000年前頃、世界はまだ氷期の余韻がころ。地表を氷が覆う時代に農業は不利です。集団を小さくし、移動しながら狩猟する生活の方が「生存確率」は高まります。

事実、世界中に農耕が拡散したのは、氷期が終わった後、地球が温暖になってからです。つまり、狩猟民が農耕をしなかったのは、生存戦略的に「農耕<狩猟」と判断してのことと考えられるのです。

「多様性」の大事さ

効率性・生産性から言えば 農耕>狩猟 です。しかし、効率重視は「万一」に弱い。農業も農作物を生産性の高い1種類に限定すれば、農地の管理もきわめて容易になる一方、病害虫・気候変動などで一度にやられます。

一方、狩猟民族は、気候変動を含め、生きた時代が不安定で過酷でした。その中で生き延びるために、自然と共に、変化を受け入れて生きる生き方を選択しました。自然が持つ圧倒的な多様性の中から、そのときどきで必要なものを調達することで「食料」を調達しました。また、食料に事欠けば、変化することを恐れず、アフリカ大陸から次なる大陸へ移動もしました。それにより、人類は一カ所から世界に散らばり、「人類という種」を存続させることにも成功したのです。

先行き不透明な時代の生き残り戦略

気候が安定している場合、狩猟採集民と農耕民はそれぞれの価値観で生活を維持することができるでしょう。しかし、「先行き不透明な時代に生き残れるのはどちらか?

それは、多様性&変化を受け入れて生きる「狩猟採集民」でしょう。

気候がふたたび暴れ始めるとしたら、人間社会にはどのような影響があるのか―。確かなのは、農業に基盤を置いた社会が深刻な見直しを迫られるということです。

多様性&変化を受け入れよう

本書の最週初を読みながら思い出していたのがスペンサー・ジョンソンさんの以下の2冊のベストセラーです。

迷路のなかに住む、2匹のネズミと2人の小人。ところがある日、突然、チーズが消えてします。その時、ネズミと小人のとった行動は!?「チーズ」は「幸せ」のメタファーです。わかりやすい単純なストーリーですが、状況の変化にいかに対応すべきかを教えられます。

古代においては、恐竜は今よりも全然暑い気候の時代に地球上で君臨した恐竜は、急激な環境変化に耐えられず絶滅したのに対し、ネズミににた小さな生き物だった哺乳類の祖先は、危機を乗り越えて生き延び、その後、種を広げて反映しました。

人間は発達した脳を持つ一方で、凝り固まった考えもします。社会・国の思想が一方向に向かうとろくなことがないのは、第二次世界大戦時の全体主義国家となった日本を見れば明らかです。また、1個人であっても、思考が凝り固まるとろくなことはありません。一方で、全世界の人々の英知が結集すれば、様々なアイデアで、世界はより豊かな方向に向かうはずです。

まさか、「気候変動の本」を読んで、多様性&変化の大事さを改めて思い知るとは思いませんでした。多様性の大事さについては、以下の本が本当に勉強になります。絶対に読んでおいた方がいい1冊です。

最後に

今回は、中川毅さんの「人類と気候の10万年史」からの学びを紹介しました。

気候変動に関わらない、大きな気づきが得られる良い本です。

なお、中川さんらがどのような研究で、過去の気候変動を突き留めているかについては、全く触れませんでした。この部分にも地球に興味をもつ様々な気づきがあります。是非、この部分は本書を手に取って読んで学んでください。