金融機関のライバルは、もはや他の金融機関ではなく、他業界からの参入者である。
特に、最先端のテクノロジーを加え、使いやすいユーザーインターフェースで利用者を虜にする術に長けたテクノロジー企業だ。

本書は、タイトル通り、現在注目を浴びるFintechの現状、金融機関などの取り組みをまとめた書です。

冒頭に紹介した言葉は、英国バークレーズ銀行の前CEOアントニー・ジェンキンス氏の発言ですが、Uberがシンプルで使いやすいスマホアプリでタクシーにとって代わったように、金融業界においても、支店を持たないスマホアプリのみの振興銀行が従来の銀行にとって代わる。つまり、支店は消えモバイルへとシフトする。そんなテクノロジーという「止めようのない力」が、旧来の金融システムを大きく変えてしまう現実は既に始まっています。

では、現状で、何が起こっているのか?

本書では、
・なぜ今、FinTechが話題となるのか
・FinTechの核心的技術であるブロックチェーンとはどういうものなのか
・FinTechをサービスに分けて分類するとどうなるのか
・金融機関はどのようにFin Tech、或いは振興FinTech企業と向き合おうとしているのか
・金融ビジネスがどのように変貌しつつあるのか
・日本におけるFinTechの方向性は
など、1冊でFin Techに関する動きが把握できるようになっています。FinTechの状況と今後を把握するための、おススメの一冊です。

振興FinTech企業 VS 既存金融機関

FinTechで優れたサービスを提供し始めているのは振興企業。得意とするのは、例えば、アプリ決済やAI等を駆使し自動で資産運用が行えるロボアドバイザーにみらえるようなフロントエンドシステムです。これまでの金融機関のサービスでは存在しなかった、卓越したユーザ体験で顧客を魅了するサービスを無料、もしくは低料金で提供し、既存の顧客から顧客を奪い始めています。

このようなフィンテクサービスは伝統的な金融機関が「利幅が薄い」として無視してきたようなニッチマーケットを狙ったものが多いです。しかし、振興FinTech企業はリアル店舗ではなくネットで提供することで、ローストオペレーションを実現し、利益をあげています。

金融機関がFinTech企業と提携する訳、そしてジレンマ

振興FinTech企業は、金融機関と顧客の取引における「ラストマイル」を狙い、デジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代の顧客を取り込んでいます。この顧客層の囲い込みに策として、FinTech企業と提携することに大きな意味が出てきます。それ故、積極的に投資や買収を行っています。

「土管化」を避けたい既存金融機関

Fintech企業との提携が今後重要だと考える既存金融機関ですが、提携には時間がかかったり、検討中断となるケースも多々のが現状です。また、一部の金融機関はAPIの公開を始めたものの、まだまだ公開に踏み切った金融機関はほんの一握りです。APIを公開する企業が少ない本当の理由は何でしょうか?

金融機関は、API公開により、これまで一体サービスとしてすべて自前で提供してきた金融サービスを、少しずつ外部のFintech企業に浸食されていく脅威にさらされることになります。機能ごとに分化したモジュール型のサービスとして提供せざるを得なくなってしまいます。これは、通信業界と同様に、金融インフラが「土管化」してしまうことにつながってしまうのです。

この土管化が進んだ場合、通信業者が「通信回線の品質」と「通信料の安さ」の二つのみの競争に追い込まれてしまったように、業務が口座維持管理のみとなり、他社とのサービスの差別化は困難になります。

日本におけるFinTech

日本は他国に比べ、FinTechの進展が遅れています。金融先進国に対し、スマートフォンの保有率の低さが影響して、モバイルバンキングの理由率も低いのが現状です。特にお金を持っているのに、モバイルバンキングの利用率が低いシニア世代の取り込みは非常に重要と言えます。

以下、参考まで、日本で認知度が一定量ある、Fintechサービスを挙げました。一部、私もサービスを利用しています。
家計簿アプリ:マネーフォワード
ロボアドバイザー:Theo
ロボアドバイザー(メガ三行のVC出資ベンチャー系):Wealth Navi
ロボアドバイザー(マネックス系):MSV LIFE

FinTechは金融機関のビジネスモデルを変えてしまう、大きな脅威ですが、急速なスピードで進んでいくことは避けようもありません。本書は読んでおいて損のない一冊です。