本書の著者はゴールドマン・サックス、ドイツ証券などで長年活躍してきたトレーダーの松村氏。
現代の不安をお金/金融政策/社会構造などを織り交ぜ分析した、前著「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」(2015年2月に発刊)を前編として、続編を後編としたうえで、前編・後編を改めて1冊の本としてまとめています。

前著作同様、一般的には難しくなりがちな経済論・資本論を、結構イマドキな感性をもつ教授が、これまた現代的な女子大生を相手に、現代の不安の現況をお金・世界経済・宗教を切り口に講義する様子を、小説仕立てでまとめています。

後編では、現在の世の中の不安の理由を、宗教、民族闘争(テロ)、アートという点を切り口に説明しています。

前作(本著書の前半分)については、以下に内容をまとめたので、参考にしてみてください。

以下では本書後編をまとめてみます。

賢者の石を使い果たした現世界

なぜ、我々はこれほどまでに将来に不安を感じるのか?それは、賢者の石(錬金術における最高の物質)を使い果たしてしまったことが原因にあると著者は指摘します。

現在の経済は「成長」が前提となっています。成長期待から株価が上がり、経済が潤う世界です。しかし、我々は、賢者の石を使い果たしてしまい、それでも成長しようともがき続けて劇薬を使うしかなくなってしまったのです。
その劇薬の例が「マイナス金利」「国家による株式等の大量購入」などにみられる金融政策です。また、リーマンショック以降、「BRICSが成長の原動力」という言われ方がしましたが、これも成長限界を迎えて投資先を探していた先進国投資家(特に米国)が打ち出したある劇薬ストーリー。意味わかりやすい理由を後付けすることで、世界を納得させたといえます。

この劇薬の副作用として、世界の貧困格差は拡大し、ついにはイスラム国のようなテロ集団に各国から人が集まるようなおかしな事態を引き起こしています。

このような現代社会に対し、著者の松村さんは、世界が成長の限界を迎えていることを示すと指摘しています。

イスラム国を生み出した環境にこそ問題あり

劇薬の副作用の一つともいえる「イスラム国」。イスラム国自体にも問題はありますが、それ以上に、イスラム教原理主義に走る人たちを生み出した環境のほうが問題です。

もともと、中東は東西の文明が交差するところで、いろいろな民族がいろいろな宗教を信じて生きてきました。しかし、世界システム=時代時代の覇権国は、勝手に国境線を引いてしまいました。つまり、あるときまでぜんぜん別の民族だったり宗教だったりした人たちが、いつのまにか勝手に1つの国家として線引きさせられたが故、対立が生まれてしまったのです。

エルサレムを奪還のためにキリスト教がイスラム教徒に仕掛けた戦争「十字軍」に始まる宗教問題、領地占拠・奴隷化など、賢者の石にされた恨み、そして、貧富の格差の究極の拡大が、イスラム国のような異常な集団に人々が集まってくる原因なのです。

著者は、テロ集団ともいえるイスラム国に世界中から人が集まるのは、世界システムがある一定の限界を超えていることのシグナルだろうと著者は指摘しています。

もとは同じなユダヤ・キリスト・イスラム教

本書では世界システムの歪みに一神教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の対立が大きく関わることを指摘しています。

もともとは、これら3つの宗教は、ユダヤ教からキリスト教が生まれて、キリスト教からイスラム教が生まれてきているのに仲が悪い。

いつの時代も、たとえ宗教であっても、権力者は本来の仕事である精神世界の統治ではなく、現実世界の統治の欲を出すものです、結果、信仰は腐敗。カネと権力の拡大のために、キリスト教がもつ排他性が政治利用され、9.11後のサダムフセイン制圧時の時のように、確たる証拠なく制圧するというようなことにもつながるのです。

多神教に生まれた日本人は、一神教の歴史を理解すべき

日本は、「八百万(やおよろず)の神」を崇拝する国。様々なものに神が宿るとしていろんな神様をあがめてきました。仏教伝来後も、うまく、それらの要素を取り入れ、「神様、仏さま」の言葉にあるよう、いろんなものにお願いをします。

日本人の宗教観を言い表すなら、Respect for something(others)。Believe in somethingではありません。

こんな多神教の我々日本人は、唯一の神を信仰する宗教の世界観は理解できません。また、その歴史にも疎いのが現実です。しかし、これでは、現在起こる中東の紛争はちんぷんかんぷんで理解できません。日本人はもっと一神教の歴史を理解する必要があります。

日本は、「和を大事にする国」です。しかし、世界システム(覇権国)のルールは、「勝った側は勝った側の都合のいいルールで世界を仕切ろうとし、それが正義となる」ということです。戦争の勝者がルールを作るのは今も昔も同じで、現在、それを作っているのが米国であることを忘れてはいけません。

本書に、現在の世界の行き詰まりを表現した興味深い歌があると紹介がされていました。以下に、歌の紹介をしています。是非、歌詞を読んでみてほしいです。病んでいます。

“【書評】増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?―――日本人が知らない本当の世界経済の授業(松村 嘉浩 著)(★4)” への1件のコメント

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