「寄生虫博士」として知られる免疫学者 藤田紘一郎氏。ご自身の腸内で15年間6代にわたりサナダムシを飼っていたことで有名ですね。

さて、タイトルに「腸内細菌が家出」とありますが、本書は我々の腸内環境に対する警告本です。「生きとし生けるものはすべて、別の生き物から多大な影響を受け、自己がつくられている」のですが、人間の腸内環境が腸内細菌にとって悪くなり、家出、つまり、共存できる関係ではなくなってきていると言うのです。

我々の腸内細菌は、重さにして2kg!!

実は、我々の腸には、3万種類、1000兆個もの腸内細菌が住んでいるといいます。地球上で一番多く細菌が密集している場所が人の腸管なのです。重さでいえば、なんと2kgにもなるそうですが、最近、その腸内細菌の数が減少するという異変が起きています。

その理由は、いつの間にか人間が世界の中心になり、腸内細菌や寄生虫とヒトとの共生関係を大切に思わなくなってきたからだと著者は指摘します。

我々の多くは、「細菌は有害なもの」と思っていて、すぐに「抗菌だ!」といって、ありとあらゆる細菌や虫を駆除しています。しかし、細菌の中で有害なものはごくごくわずかです。花粉症やアトピー性皮膚炎に悩む人が増えているのも、抗菌の弊害で、これまで共存していた寄生生物を追い出してしまったからなのです。

脳はなくても、腸がない生物はいない

人間を含むあらゆる生き物が生存するためには、腸と腸内細菌が必須です。脳を満たない生物はいますが、あらゆう生物は腸を持っています。つまり、生きるためには脳は必ずしも必要ではなく、腸こそが必須なのです。

人の心と体は、脳から命令されていると思われがちですが、実は腸内細菌が動かしているともいえます。そう考える根拠となる研究が、現在も続々と報告されています。その一つが、トキソプラズマの感染。トキソプラズマ感染症になってしまうと、男女とも恐怖心が減ってしまうことが分かっています。

崩れる共存バランス

清潔であることは、感染症などの病気を防ぐためにはもちろん必要なことです。しかしそれが今では、あらゆる細菌や寄生虫を殺すこと自体が目的となっています。それに加え、私たちが毎日口にしているものも、経済効率と利便性ばかりに偏ってつくられているものが増えています。これも、共生のバランスを欠いている理由の一つです。

ウォシュレットやビデの使い過ぎで増える女性の病気

著者は、ウォシュレットやビデの使い過ぎの弊害についても指摘しています。
近年、若い層を中心に膣炎(細菌性膣症)になる女性が増えているのもそのせい。女性の膣には、膣内にデーデルライン乳酸菌という細菌がいて、グリコーゲンを食べて乳酸を産出することによって、膣を酸性に保ち、雑菌から守ってくれています。しかし、おしっこのたびにウォシュレットを使っていると、これが洗い流されてしまうのです。結果、デーデルライン乳酸菌が流されてしまい、膣内が中性になり、雑菌が繁殖してしまうのです。これも、人間と細菌の共存が崩れてしまった弊害です。

影響はこれだけにとどまりません。著者いわく、「うつ病や自己免疫疾患、クローン病などが増えているのも、身近に存在する細菌を追い出していることと関係している」と言います。

腸内細菌が、人の頭をも操ってしまうとは驚きでした。抗菌もほどほどにですね。

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